夫と妻の愛着スタイルの違いが夫婦関係を左右する

 ゆりかご

心理学では、幼い頃に形成された愛着スタイルが、その後の人間関係や世界観に大きな影響を与えると考えます。

人は大人になっても、自分を丸ごと受け入れてくれて、危険や不安から守ってくれる安全基地のような存在が必要なのです。

幼いころ、母親が安全基地になってくれなかった人は、人間関係や人生において生きづらさを感じたり、積極的になれなかったりします。

母親との関係が愛着スタイルを決定する

愛着理論の提唱者であるボウルビーは、子どもが危険や恐怖、疲れなどのストレスを感じたとき、母親(養育者)に助けを求め、安心感を取り戻そうとする行動を、愛着行動と呼びました。

この時、子供の愛着行動に対して、母親がどう対応したかによって、子供の愛着行動のパターンが形成されていきます。

赤ちゃんが泣いたら、お母さんがすぐにおむつを替えてくれたり、おっぱいをくれて、優しく声をかけてくれると、赤ちゃんは安心し「自分はこの世に受け入れられている」と感じます。(安定愛着)

ところが、赤ちゃんが泣いても、お母さんがすぐに来てくれなかったり、不機嫌で怒ってばかりいると、赤ちゃんは「自分はこの世に受け入れられていない」と感じ、他人と世界に対して不信感を持つようになります。(不安定愛着)

このような愛着パターンの形成は、生後3か月の赤ちゃんに、既に見ることが出来ます。

 

安定愛着の子供は、ありのままの自分を受け入れてもらっている安心感があり、親に甘えたり感情を素直に表すことに抵抗がありません。

ところが不安定愛着で不安型の愛着パターンを身に着けた子供は、母親に対する見捨てられ不安が強く、常に顔色をうかがって、親に気に入られるいい子でいようとします。

一見、手がかからず育てやすい子に見えますが、親に対して甘えたい欲求をひたすら押し隠して、親に合わせているのです。

 

同じ不安定愛着でも、回避型では、お母さんに対して無関心になり、愛着行動を見せなくなります。

回避型は、他者との親密性を避け、愛情表現も淡泊な人が多いですが、その根底には求めることで傷つくことを避けている心理があります。

また、他人や世界に対して否定的であるため、本当に心を許せる友人がいなかったり、誰にも頼らずに自分だけで道を切り開いていこうとする人が多いのです。

4つの愛着スタイルの特徴

大人の愛着スタイルは、他者との親密性の回避傾向と、見捨てられ不安の大きさから、次の4つに分類することができます。(Bartholomew & Horowitz)

安定型(自分には肯定的・他人にも肯定的)

  • 相手と親密な関係を築くことが得意である。
  • 自分軸を失うことなく、親しい関係を維持できる。
  • 相手に依存したり依存されたりすることに抵抗がない。 

拒絶型(回避型)(自分には肯定的・他人には否定的)

  • 人と親密な関係を築くことを軽視し、回避する。
  • 感情表現・愛情表現を抑制し、他者との間に距離を置く。
  • 独立性と自律性を重視し、誰かに依存したり依存されることを好まない。
  • 自分の領域を侵害されたと感じると、攻撃的になったり、引きこもることがある。

とらわれ型(不安型)(自分には否定的・他人には肯定的)

  • 親密な関係を求め、相手に過剰に期待し依存する。
  • 相手に受け入れられていないと不安で、幸福を感じられない。
  • 相手の心が自分から離れることに対して不安が強く、拒絶されることを恐れる。
  • 相手にないがしろにされているという被害意識を持ちやすい。
  • 自己嫌悪に陥りやすく、ひどくなるとうつになることもある。 

おそれ型(自分には否定的・他人にも否定的)

  • 拒絶されることへの恐怖・見捨てられ不安が強く、人と親密な関係を結べない。
  • 相手への不信感が強く、相手の言動を悪く取りがちである。
  • 心の底で、深い絶望感と孤独感に苛まれているが、それを感じないように感情を麻痺させて生きている。

愛着スタイルと夫婦関係

1.安定型+安定型

最も理想的な組み合わせです。

お互いに甘え、甘えさせられる関係にあり、それでいて相手に依存しすぎることがありません。

二人とも情緒が安定していて、肯定的な人生観を持っているため、協力していろいろなことを成し遂げていくことが出来ます。

 

2.安定型+拒絶型(回避型)

愛情表現が苦手で淡泊な拒絶型。

でも、安定型から安定した愛着行動を受けることで、徐々に心を開き癒されていきます。

夫が回避型の場合は特に、ストレスを受けると自分の殻に引きこもって悩みも打ち明けてくれません。

そんな時は根ほり葉ほり聞かずに、そっとしてあげることです。

一見、孤独が好きなように見えますが、実は寂しがり屋で母性を求めている人が多いのです。

性的にも淡泊でセックスレスになりがちですが、安定型の妻からのスキンシップや愛情表現を、うるさがりながらも心待ちにしています。

 

3.安定型+とらわれ型 (不安型)

愛されてないのでは?とすぐに不安に陥るとらわれ型。

でも、安定型からの安定した愛着行動によって、だんだん安心して自信を持てるようになります。

とらわれ型は、相手の表情にとても敏感で、相手が不機嫌になると、自分のせいかとビクビクしてしまいがちです。

ところが、自分がないがしろにされていると感じると、突然キレて、心とは裏腹の暴言を吐くことがあります。

そんな姿が、相手には理解できず、戸惑ってしまうかもしれません。

とらわれ型には、インナーチャイルドの癒しのワークが、特に効果的です。

 

4.とらわれ型(不安型)+拒絶型(回避型)

とらわれ型が極度に愛着を求める反面、拒絶型はそれを避け、距離を置きたがります。

それがとらわれ型の不安を一層掻き立て、さらに相手にしがみつこうとする、という悪循環が起こります。

拒絶型は依存されることが苦手なため、相手を精神的に重荷に感じ、別居などをして一時的に距離を取ろうとすることもあります。

拒絶型の相手と上手く付き合うには、共通の趣味などを持つことです。

また、自分の興味を持っていることについては、突然饒舌になる人が多いので、相手の好きなことに関心を持ってあげることです。

仕事や、コンピューターゲームなどにハマりやすい人が多いので、一緒にゲームをしたり、教えてもらうような気持ちで仕事のことを話題にするのもよいでしょう。

 

5.拒絶型(回避型)+拒絶型(回避型)

大変淡泊なカップルとなります。

共通の趣味や目標を持っている場合には、よく機能します。

お互いに相手に依存せず、つかず離れずの距離を取って、マイペースに暮らします。

ただ、二人とも引きこもってしまった場合には、難しくなります。

 

6.とらわれ型(不安型)+とらわれ型(不安型)

お互いに、相手に依存しすぎてしまいます。

とらわれ型の二人が出会うと、運命の出会いのように惹かれあい、熱烈な恋愛となることも多いのです。

しかし、時が経つとお互いを満足させることが出来ないことに気づき、不安に陥り共倒れしてしまいます。

どちらかがまず、カウンセリングなどで自分のインナーチャイルドを癒し、相手に依存しなくても安定できるようになることが大切です。

 

7.安定型+おそれ型

おそれ型の人と何とかやっていけるのは、おそらく安定型の人だけでしょう。

心を開かず、孤独でマイペースな相手の姿に、戸惑うことが多いかもしれません。

大勢の中にいても、たった一人別な行動を取ったり、いわゆる「空気を読めない人」と思われてしまいやすいおそれ型。

実は、ガラスのように繊細で、相手の言動に敏感です。

感じないふりをしているのは、自分を必死に守っているからです。

 

こういう人は小さい頃、極度に疎外された環境で育った場合がほとんどです。

何を考えているかわからないことが多いのですが、心の底には幼少時代からの氷のような寂しさ・悲しみ・怒りなどが渦を巻いています。

夫がおそれ型である場合、妻は母親になりきって、夫を育て直すつもりで対してあげる必要があります。

妻が安定型だとしても、夫に一方的に与える立場はしんどいと思いますが、自分自身の心にも常に栄養を与えながら、夫のリハビリをしていくしかありません。

しかし、こういう夫婦の場合、明るい子供たちに恵まれ、和気あいあいとした家庭の雰囲気の中で、夫が徐々に変わっていったケースをいくつか見ました。

まずは自分の内面を癒し、安定型に近づけることから

幼い頃に身に着けた相手の愛着スタイルを変えるのは、容易ではありません。

けれども、まずは自分自身が内面を治癒して、安定型に近づくことが重要です。

安定型には、他の不安定な愛着パターンを治癒する力があります。

妻の内面が癒されることによって、夫も変わってくるのは、そのためです。

 

完璧な幼少時代を送った人はだれもいません。

でも大人になってからでも、自分の潜在意識にアクセスして不安定愛着の要因を見直し、安定型に近づけることは可能です。

自分と相手の愛着スタイルを知ることで、夫婦関係や親子関係を、よりスムーズにしていくことができます。