爬虫類脳が夫婦喧嘩をエスカレートさせる!

さっきまで笑っていた夫婦が、ふとしたことで喧嘩を始める…

感情だけが高ぶってお互い攻撃し合うけれど、振り返ってみたら、いったい何が原因で喧嘩していたのかよくわからない…ということがありませんか?

度重なる夫婦喧嘩は、お互いへの不信感を強めてしまいます。

特別な理由もないのに、夫婦喧嘩が突然始まり、どんどんエスカレートしてしまうのはなぜなのでしょうか?

夫婦喧嘩の引き金になるものは?

夫婦喧嘩が起る原因をしっかり見つめてみると、そこには必ず引き金となる何らかの刺激と、それに対する反応という図式が見えてきます。

例えば、「売り言葉に買い言葉」と言われるように、「売り言葉」が刺激となって、それに対する反応としての「買い言葉」があるわけです。

刺激は、言葉だけではありません。

相手のちょっとした表情、声のトーン、しぐさなども刺激となります。

例えば、会社から帰ってきた夫が、何も言わずに、ため息を一つついたとします。

これが刺激となって、妻の心の中には、様々な憶測が飛び交います。

「会社で面白くないことでもあったのかしら…?」

「疲れてるのかしら?」

「そういえば、朝、言い合いになったことを、まだ根に持ってるのかな…」

などなど、妻の中で、勝手に想像が膨らみます。

これが、「夫のため息」という刺激によって呼び起こされた、妻の反応なのです。

考える前に反応してしまうのはなぜ?

ところで、反応の中には、考える間もないうちに自動的に出て来るものもあります。

例えば、夫のため息を聞いたとたん、妻の心の中から強い怒りが湧いてきたとします。

妻自身も、なぜそんなに腹が立つのかわかりません。

とにかく無性に腹が立ってきて、夫に何か一言言ってやりたくなります。

夫婦において、こうした反応が、夫婦喧嘩の引き金となっていることが大部分なのです。

では、考える間もなく自動的に出てくる反応を止める方法はないのでしょうか?

実は、それは脳のしくみと関係しているのです。

あなたの中にある三つの脳

人間の脳を進化論的に見ると、大きく三つの部分に分かれています。

戦うか・逃げるかの爬虫類脳

まず、最も原始的な脳である「爬虫類脳」についてお話しします。

爬虫類脳は、本能自己保存をつかさどっています。

大脳旧皮質(脳幹・視床下部)がそれにあたり、「闘争か逃走か」という生存の本能に関わる判断を一瞬で下します。

例えば、小さなヘビの前に巨大なヘビが現れたとします。

小型ヘビは「巨大ヘビに立ち向かうか、それとも逃げるか」の判断を、瞬時に下さなければなりません。

一瞬の遅れは、命の危険につながります。

人間にも、全く同じ働きをする脳が、一番底の部分にあるのです。

強い感情が貯蔵される旧哺乳類脳

次に「感情脳」と呼ばれる「旧哺乳類脳」があります。

これは大脳辺縁系と呼ばれる部分で、ここには感情の伴う記憶がすべて貯蔵されています。

特に、不安・怒り・恐怖などが伴った記憶や、快・不快の記憶は、似たような刺激を受けることによって自動的に再生され、過去に体験したのと同じような感情が蘇ってきます。

記憶自体はよく思い出せないのに、感情がありありと再生されるため、自分でも理由がわからないまま感情に飲み込まれ、攻撃的になったり、防御的になったりするのです。

これは、動物が危険な目にあった記憶を脳に貯蔵することによって、短時間で危険を回避するためのメカニズムなのです。

夫婦喧嘩においても、このメカニズムが働くと、相手の表情などの小さな刺激に過敏に反応して、強い不安や恐怖、怒りなどが湧いてくることがあります。

その感情は、実際は相手から来たものではなく、自分の脳の中に貯蔵されている過去の記憶から引き出されたものなのです。

理性と論理で考える人間脳

私たちはもちろん人間として、理性によって考える脳を持っています。

これが大脳新皮質であり、先の爬虫類脳や旧哺乳類脳に覆いかぶさる形で発達しています。

この「人間脳」は、理性的・論理的に物事を考えることができ、認知能力や言語能力をつかさどっています。

夫婦喧嘩で人間脳をうまく使えない理由

ところが問題は、刺激が与えられて人間脳に到達するまでに、時間がかかるということです。

人間脳が判断を下す前に、爬虫類脳や旧哺乳類脳によって反応が起こってしまうのです。

わかりやすい例をあげれば、熱い鍋に手を触れてしまった時、「あ、鍋が熱いから手をどけなければ」と悠長に考えてから鍋から手を放す人は、誰もいません。

そんなことをしたら、大やけどを負ってしまうので、瞬時に手を引っ込めるはずです。

これが爬虫類脳による反応です。

命の危険にかかわることであるほど、爬虫類脳による瞬時の判断が行われるのです。

また、妻が夫のため息を聞いて、なぜかとても不安になったとします。

実は妻には、妻の父親が病気で死ぬ前に、ため息をつくことが多くなった、という過去の記憶がありました。

そのため、ため息をする男性を見ると、自分でも無意識のうちに、その時の不安感が蘇ってくるのです。

これは、旧哺乳類脳による反応だと言えるでしょう。

人間脳の反応は、これら二つの反応に比べて、圧倒的に遅いのが特徴です。

思考・分析して判断を下す、という作業には、どうしても時間がかかってしまうからです。

そのため、人間は自分の身の安全を守るために、無意識的に爬虫類脳や旧哺乳類脳レベルで、素早く反応するときがあります。

そして、その反応は、ほとんどが「闘争か、逃走か」すなわち「攻撃か、防御か」の二種類の反応になりやすいのです。

「夫がいきなり激怒した」、「妻が突然防御的になった」など、夫婦喧嘩でよく見られるこのような反応は、理屈では理解不能なことが多いのです。

相手の豹変ぶりに、こちらも反応してしまって、怒りや恐怖が湧いてきたりします。

こうして、夫婦喧嘩はどんどんエスカレートしていきます。

これらはすべて、人間脳以外の脳を使って反応しているために起こる現象なのです。

人間脳を活用して、夫婦喧嘩を回避する

私たちが、爬虫類脳や旧哺乳類脳の反応による夫婦喧嘩を避けるためには、どうしたらいいのでしょうか?

それには、人間脳が理性的に考えることのできる時間を、脳に与えてあげることです。

夫婦喧嘩になったら、お互いの動物脳による刺激と反応のやりとりが起こるのを避けるために、まずは相手から物理的に離れます。(タイムアウト)

別の部屋に行ったり、外出したりするのもいいでしょう。

その時に、何も言わずに行くと、相手の怒りを煽ることになるので、「ちょっと頭を冷やしたいので」などと、一言言ってから行くのがいいかもしれません。

次に、深呼吸を何度かして、自分を落ち着かせるとともに、脳への血流を良くします。

そして、もう一度自分や相手が何に反応したのかについて、ゆっくりと思い返してみます。

こういうことを何度か繰り返すと、自分たちの夫婦喧嘩のパターンが見えてくるはずです。

自分の反応パターンと、相手反応パターンを知ることで、かなりの割合で夫婦喧嘩を回避できるようになります。

自分の中の特定の反応パターンを分析し、その頻度を減らしていくには、カウンセリングによる潜在意識へのアプローチが、効果を発揮します。