夫の浮気の原因は心の影?ユング心理学が解き明かす浮気の心理

「夫の浮気が発覚した瞬間、頭が真っ白になった」
「まさかうちの夫が……。心から信じていたのに」
「夫婦仲は悪くなかったはずなのに。理解できない」
カウンセリングの現場では、こうした声をよく耳にします。
配偶者の浮気は、心を深く傷つける出来事です。
それまで信じてきた夫婦の絆が音を立てて崩れ去り、再び相手を信じることが難しくなってしまいます。
浮気された側が最も知りたいのは、「なぜ、夫(妻)は浮気したのか?」という理由。
この記事では、その答えをユング心理学の「シャドウ(影)」という概念から読み解いていきます。
配偶者の浮気・不倫という行動の裏に、どんな心のメカニズムがあるのかを理解することで、傷ついた心が少しでも整理され、癒しに向かうヒントになれば幸いです。
あなたの中にいるもう一人の自分、「シャドウ」
私たちの心の中には、自分で思っているより遥かに多様な側面があります。
しかし、そのすべてが「自分自身」として受け容れられている訳ではありません。
「良い自分」と「良くない自分」
「人に見せている自分」と「見せたくない自分」
「自分らしい自分」と「自分らしくない自分」
などのように、一人の人間の中には、表に見せている部分(ペルソナ)と、隠している部分(シャドウ)とがあります。
心理学者のユングは、この自分でも無意識に隠している部分を「シャドウ(影)」と呼びました。
シャドウとは、個人が自分自身の一部を無意識に抑圧・否定することによって形成される、人格の裏の側面です。
これは社会的・道徳的・文化的な「ルール」や、個人の「〜であるべき」という信念によって生まれます。
以下に、「ルール」とそれによって生じるシャドウの例を示してみましょう。
シャドウの例
① 常に真面目であるべき →シャドウ:怠けたい・ふざけたい・無責任な自分
いつもきちんとしなきゃと思ってる人ほど、ダラけたい気持ちや羽目を外してはしゃぎたい側面を抑圧しがちです。
② 人に優しくしなければ →シャドウ:怒りっぽい・攻撃的な自分
「優しさ」を美徳として生きている人ほど、内心では怒りや攻撃性を持っていても、それを認めることができず、シャドウになります。
③ 強くあるべき →シャドウ:泣きたい・依存したい・助けを求めたい自分
強くあろうとし続ける人の中には、実はものすごく繊細で甘えたがりな側面が隠れています。
④ 人に迷惑をかけてはいけない →シャドウ:自分勝手・わがまま・他人を無視したい自分
他者配慮が強い人ほど、自分の欲望を貫きたいという側面を抑え込み、その欲望が夢や妄想、あるいは攻撃性として出ることもあります。
浮気相手に惹かれる理由は「自分の影」の投影
シャドウは「ダメな自分」ではなく、「今まで生きられなかった自分」です。
そして人は、そのシャドウを無意識に他人に投影して、強く惹かれたり反発したりすることがあるのです。
たとえば、自分自身や配偶者とは正反対の性質を持つ女性に惹かれてしまうのは、自分のシャドウを投影しているからだと考えることができます。
実際の事例を見ていきましょう。
事例1:奔放な女性に惹かれた真面目な夫
Aさんはとても真面目で責任感が強く、羽目を外すことがないタイプ。
妻も同じく真面目な人で、安定した家庭を築いていました。
しかし、Aさんはある日、自分とはおおよそ似つかわしくない奔放で自由な女性と恋に落ちます。
その女性は、彼がずっと抑え込んできた「自由になりたい」「衝動のままに生きたい」という影の自分を体現していたのです。
Aさんは、自分の中のシャドウに惹かれていたのかもしれません。
事例2:自己主張できない夫が惹かれた相手
Bさんは優しく、夫婦仲も悪くありませんでしたが、いつも自分の気持ちを押し殺して生きていました。
やがてBさんは、自分の感情をはっきり言える年下の女性に惹かれていきました。
彼女は、Bさんがこれまで抑圧してきた「自分の意見を主張したい」「自己表現したい」という影の姿そのものだったのです。
妻への不満は、本当に「妻のせい」?
このように、自分の中に抑え込んできた「生きられなかったもう一人の自分(シャドウ)」が、浮気相手に投影されることにより、相手が自分の魂の片割れのような気がして、強く惹かれてしまうことがあります。
でもそれは、本当の意味で相手の人格を愛しているのではなく、自分自身の影に惹かれているのです。
その一方で、浮気に走った夫が妻に対して「愛情を感じなくなった」と言ったり、「妻に分かってもらえず、孤独を感じていた」といった不満の言葉を口にすることがあります。
でも、その不満の裏には、自分の感情をうまく伝えられない、弱さを見せることに抵抗がある、傷つくことを恐れて距離を置いてしまうなど、彼自身の課題があることがほとんどです。
つまり、夫自身が自分の心の問題に向き合わないまま、それを妻に投影して「妻の問題」として責任転嫁し、代わりに「自分を理解してくれる誰か」を外に探してしまうため、それが浮気の原因となることがあるのです。
「シャドウの投影」と向き合うことの重要性
もし、夫の浮気の背景にこのような「シャドウの投影」があるとしたら、浮気相手との関係を切ったとしても、シャドウ自体が消えない限り、またそれを別の人に投影する可能性があります。
シャドウの投影を防ぐには、彼自身が自分の心に向き合い、自分の中にあるシャドウを見つめ、自分自身の一部として受け入れていくことが大切です。
- 「自分は本当は、どうしたかったんだろう」
- 「どんな気持ちをずっと我慢してきたんだろう」
- 「何に一番傷ついているのだろう」
このような質問が役に立つかもしれません。
自分自身の抑圧された感情や願望に気づき、受け容れることで、あるがままの自分を受容することができるようになっていきます。
自分の一部としてシャドウを迎え入れると(シャドウの統合)、自分以外の誰かに投影されることがなくなっていきます。
夫が自身と向き合うために、妻としてできること
夫が自身のシャドウと向き合うのは、夫の課題ですが、妻としてできることは何でしょうか?
「夫を許すとか、理解するとか、そんな段階にはまだ到底たどり着けない……」
「裏切ったのは夫の方なのに、これ以上私が努力する気になれない」
と感じるならば、今はその気持ちをそのまま受け容れ、自分にプレッシャーをかけないことです。
誰よりも傷ついているのは、あなた自身だからです。
でも、もし少しだけ心に余裕が生まれて「夫が自分の影と向き合うことを助けてあげたい」と思える時期が来たならば、次のようなことを意識してみてください。
1. 「責める」のではなく「感じたこと」を伝える
「どうしてそんなことしたの?」
「私がどれだけ傷ついたかわかってるの?」
そのように言いたくなるのは当然です。
でも、言い方を少しだけ変えてみると、相手の心にも届きやすくなることがあります。
たとえば、
「あなたの行動で、私はこんなに悲しかった」
「裏切られたことで、自分が価値のない存在のように感じた」
というように、「自分が感じたこと」を伝えることで、夫自身が自分の内面を振り返るきっかけになることがあります。
2. 「向き合う責任は夫にある」と、距離を保つ
浮気をしたのは夫ですから、「自分と向き合う責任」も、夫自身にあります。
あなたが代わりに気づかせようと必死になる必要はありません。
むしろ、感情的にぶつかり合うよりも、必要な距離を保ちながら「自分の問題に向き合ってほしい」と伝える方が、心に届くこともあるのです。
3. 心を閉ざさないで、でも急がない
「裏切った人なんて、もう信じられない」
そんなふうに心を閉ざしたくなるのも自然なことです。
でも、もしあなた自身が「もう一度、夫と向き合っていきたい」「夫にも、本当の気持ちに気づいてほしい」
という思いを感じているのなら、少しだけ心の扉を開けてみてください。
ただし、それを急ぐ必要はありません。
あなたが傷を癒しながら、自分のペースで歩んでいくことこそが最も大切なことなのです。
あなた自身の「心の影」にも向き合っていく
夫がシャドウに向き合うことが必要なように、あなた自身の心にも、傷や不安、怒り、寂しさなど、向き合いたくないたくさんの影(シャドウ)があるはずです。
そしてそれを無意識のうちに、夫に投影している可能性もあるのです。
日本を代表した心理学者でユングの研究家でもある河合隼雄先生は、次のように語っています。
つまり、われわれは自分の影の問題を拒否するときに、それに普遍的な影をつけ加え、絶対的な悪という形にして合法的に拒否しようとするのである。(中略)ひたすら悪人として攻撃していた人物が、それほどでもないことに気付いたとき、われわれは「投影のひきもどし」を行わなければならない。つまり、その人物に対して投げかけていた影を、自分のものとしてはっきりと自覚しなければならない。投影のひきもどしは勇気のいる仕事である。
「影の現象学」(河合隼雄/講談社学術文庫)
浮気をした夫に「罪人」としてのレッテルを貼り、ひたすら攻撃したくなる気持ちが湧くかもしれませんが、実はそこに、あなたのシャドウが投影されている可能性があるかもしれません。
シャドウに向き合うには勇気が要りますが、受け入れられない相手の行動の中にこそ、あなたのシャドウが隠れているのです。
私たちは、シャドウと一つになってこそ、本当の自分と出会えるのです。

