夫婦が互いのインナーチャイルドを癒すこと
「夫のインナーチャイルドを、どう癒したらいいですか」という質問をよくお受けします。
旦那さんが、普段は良い人なのに突然キレたり、急に黙り込んで引きこもってしまったりなど、理解に苦しみますよね。
これらはすべて、傷ついたインナーチャイルドによる反応なのです。
インナーチャイルドを癒すワークとは?
インナーチャイルドというのは、潜在意識の中にある、子供のままの心のことです。
私のカウンセリングの中でも、「インナーチャイルドの癒しのワーク」をやっています。
中には、ワークの中で出会った自分のインナーチャイルドの姿に、びっくりされる方もいらっしゃいます。
インナーチャイルドは、自分の心の一部のようでありながらも、一個の独立した人格体のように行動し、具体的な姿を持った存在として現れます。
自分の子供時代の姿をしており、様々な年齢のチャイルドに出会うこともあります。
傷ついたチャイルドが大人のあなたを振り回す
インナーチャイルドのワークを世間に広めた第一人者である、ジョン・ブラッドショーは、その著書「インナーチャイルド~本当のあなたを取り戻す方法」の中で、こう語っています。
「初めのうちは、小さな子供が大人の体の中に生き続けることが出来るなんて、バカげたことだと思えるかもしれません。しかしそれがまさに私の言いたいことなのです。
この無視され、傷ついた、”過去の内なる子ども“(以下インナーチャイルド、あるいはチャイルドと呼びます)は、人間の苦悩の源泉だと信じています。
私たちがそのインナーチャイルドを再生し、かばってやらない限り、そのインナーチャイルドは活動し続け、大人の生活を汚染し続けるのです。」
ブラッドショー自身、傷ついたインナーチャイルドに振り回される人生を送っていました。
普段はナイス・ガイで責任感のある父親なのに、些細な出来事で突然キレて、感情の嵐に飲み込まれ、家族を恐怖に陥れてしまう自分自身の姿に、長い間苦しんできたのです。
これら全てのことが、傷ついたインナーチャイルドから来ているということを発見した時、彼の人生は自分と他人のインナーチャイルドを癒すことに捧げられました。
夫婦関係を難しくする、インナーチャイルドの傷
夫婦関係において、傷ついたインナーチャイルドが及ぼす作用について、夫婦セラピストのスー・ジョンソンは、その著書「私をギュッと抱きしめて」の中で「むき出しの箇所」という言葉を使って説明しています。
むき出しの箇所とは、主に親との関係の中で、愛着欲求が繰り返し、ないがしろにされたことによって生じた心の過敏性のことを意味します。
それは文字通り、愛着の傷であり、インナーチャイルドが最も敏感に反応する部分です。
夫婦の一方が何気なく言った言葉が、相手のむき出しの箇所に触れると、相手のインナーチャイルドが激しく反応し、次のような行動に表れます。
突然黙り込み、必死に涙をこらえる。
急に不機嫌になり、キレる。
ムッとして、その場を立ち去る。
夫婦はケンカをすると、相手をやっつけようと、無意識のうちにお互いの「むき出しの箇所」を攻撃し合うことがあります。
しかし、それは相手に想像以上の打撃を与えてしまい、相手は猛然と反撃に出るか、あるいは心を閉ざしてしまいます。
これが繰り返されると、お互いに身構えるようになり、会話がぎこちなくなったり雰囲気がギクシャクするようになります。
お互いの「むき出しの箇所」を理解する
夫婦関係をよくするには、まず自分自身の「むき出しの箇所」について知る必要があります。
そうでなければ、相手の「むき出しの箇所」や、インナーチャイルドが爆発したときの行動を理解することができません。
自分自身の弱みを誰かにさらけ出すというのは、たとえ夫婦であっても難しく、普段私たちはそれを注意深く避けながら生きています。
けれども、スー・ジョンソンが言うように、相手に自分を十分に知ってもらわなければ、本当に安定した強い絆を生み出すことはできません。
嫌われるのが怖くて、自分のむき出しの箇所を巧妙に隠していては、お互いに相手に最も理解してほしい部分を、永遠にわかってもらうことは出来ないのです。
勇気を出して、自分のむき出しの箇所について相手に伝える
もちろん、伝えるのは勇気が要ります。
「こういう話をするのは難しいのだけど…」と前置きをしてから、自分の敏感な内面世界について、少しづつ伝えていきましょう。
相手が、それを親身に聞いてくれるようだったら、自分のインナーチャイルドがどのように傷ついたのかについても、伝えていきましょう。
あなたが正直になることで、相手も自分自身のむき出しの箇所や、それが作られた原因について語ってくれるようになります。
こうしてお互いのの話を聞いてみると、びっくりする場合が多いのです。
今まで相手が自分を嫌いだからしていたと思った行動が、実は相手の傷ついたインナーチャイルドから来ていたのだということがわかり、お互いを理解する気持ちが生まれます。
実際にあったカウンセリングの事例
夫の浮気を責めたら逆ギレされた妻
お互いに傷ついたインナーチャイルドを抱えたご夫婦において、実際にあったカウンセリングの事例を紹介してみましょう。
A子さん(仮名)と夫は小売店を経営していましたが、実際に店を切り盛りするのはA子さんで、夫の方はのらりくらりと遊び歩いていました。
酒を飲んではキレて、A子さんに暴力を振るう夫に、A子さんはかなり前から心を閉ざしていました。
揚げ句の果てに、夫は店の従業員と浮気し、相手の女性からセクハラで訴えられて、それを示談にするために多額のお金が必要となったのです。
A子さんがそのことで夫を責めると、夫は逆ギレして暴力を振るい、手が付けられない状態になりました。
長年の結婚生活で傷つくだけ傷ついてきたA子さん。
子供たちを守りたい一心で離婚を避けてきましたが、ついに我慢の限界が来て、カウンセリングに来られました。
父親に甘えられなかった子供時代
ところが、カウンセリングをする中で、A子さんの中に父親との大きな葛藤があったことがわかったのです。
厳格な家庭の雰囲気は、A子さんにしっかりした良い子であることを要求しました。
親に対する甘えや反抗は一切許されず、全てにおいて完璧であることを願われてきたのです。
そんなA子さんが、第一の結婚に破れて失意の中にあった時、慰めてくれたのが今の夫でした。
情緒不安定になっていたA子さんは、「誰でもいいから寄りかかりたかった」と言います。
二人は急速に仲良くなり、結婚したのでした。
お互いの傷を告白しあったときに夫婦が分かり合えた
セッションの中で、A子さんに辛かった子供時代の自分の心に向き合ってもらいました。
初めは「親に反抗してはいけない」というブロックが強くかかっていたため、インナーチャイルドにアクセスするのに時間がかかりましたが、ひとたびチャイルドが出てくると、我慢してきた父親へのネガティブな思いが、涙と共に次々と湧き上がってきました。
それまで、夫が自分の家族を少しでも悪く言おうものなら、激しく怒っていたA子さんでしたが、子供時代の寂しかった思いを、敢えて夫に話してみるよう勧めました。
A子さんが勇気を出して、自分の子供時代の心の傷を夫に告白すると、夫は強く見えた妻の内面に、そんなに脆くナイーブな部分があったことを知り、大変驚いていました。
そして「お前はいつも完璧に見え、オレをどうしようもないヤツだと軽蔑してると思っていた」と、自分の率直な気持ちを妻に語り始めたのです。
夫は、妻に認められていない寂しさから、わざと妻を困らせるようなことばかりしてきたことや、彼自身も小さい頃から親に認められす、劣等感に満ちた人生だったことを、泣きながら告白しました。
今まで見せたことのない内面の傷つきやすさを相手に見せることで、初めて二人はお互いの本当の気持ちを理解することができました。
実は鏡のように、同じような苦しみを抱えて生きてきた二人だったのです。
夫婦は、これまでお互いを理解できずに傷つけあってきたことを謝罪し、抱き合って号泣しました。
それは、今まで突っ張って生きてきたA子さんが、初めて夫に寄りかかることの出来た瞬間であり、自信を持てなかった夫が、「A子さんを守りたい」と再び決意できた瞬間でした。
離婚寸前まで行っていたA子さん夫婦は、こうして絆を取り戻すことができたのです。
最後に
夫婦が、お互いのインナーチャイルドの傷や、むき出しの箇所について理解することは、今まで理解不能だと思っていた相手の行動に、明確な理由を与えてくれ、理解と共感と許しを促すのです。
これ以上絶対に分かり合えない、と思っていた夫婦も、カウンセリングを通して、まず自分自身の傷ついたインナーチャイルドに向き合うことで、相手のインナーチャイルドの傷を理解することができるようになります。
最後に、スー・ジョンソンの言葉を引用して終わりたく思います。
「それでも、私たちは過去の囚人ではない。良い方へと変わっていくことができる。
…それは、たとえ深い傷でも配偶者の愛があれば治せるということだ。
思いやりのあるパートナーが、つらい気持ちをしっかり受け止めてくれれば、安全な結びつきの感覚を「獲得」できるのだ。
本当に、人は愛によって変わるのだ。」