ある姉妹のストーリー(隠された禁止令からの解放)

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ありのままの自分を受け入れ、愛することを妨げる禁止令というものは、親からの虐待などの特殊な環境で作られるわけではありません。

ごく普通の家庭において、良識的な両親に育てられたとしても、子供の心の中にいくつもの禁止令が植えつけられ、それが一生を通してその人の考え方を左右するということを、実際にあった事例を通して、お話ししたいと思います。

 

ある姉妹がいました。

姉をA子、妹をB子と呼ぶことにします。 

3歳違いで、妹の方は姉より可愛く、姉の方は勉強ができました。

二人とも順調に結婚し、子供もでき、それなりに幸せな毎日を送っているようでした。

 

ところが子供が思春期に差し掛かる頃から、A子には悩みが出てきました。

子供とどうも上手くいかない。

子供のために一生懸命、良妻賢母を努めてきたのに、子供は「お母さんなんて大キライ」と言う…

A子は長女として、父親に期待をかけられてきたため、勉強も頑張って成績も優秀、大学も卒業しました。

でも小さい頃からどうしたわけか、父親が本当は自分が男の子であることを願っていたのだと思い込むようになりました。

女の子である私は、愛されない。

だから女としてではなく、男より強い実力のある存在になることで、父親の愛を受けよう、と決心したのです。

 

そんなA子にとってのライバルは、妹のB子でした。 

B子は大変可愛らしく、よく父親の膝に乗っている姿を、A子は羨ましそうに見ていました。

A子には、B子が、自分には決して与えられなかった、無条件的な愛を受けているように見えたのです。 

小さい頃から体格の大きかったA子には、父親に抱っこされたり、可愛がられた記憶があまりありません。

お行儀が悪いとトイレに連れて行かれて、頬っぺたが青くなるまで殴られることもしばしばでした。

メソメソ泣き続けていると、更に怒られました。

A子は、自分が妹と勝負するには、女の子としての可愛さでは到底太刀打ちできない、 強くないとダメなんだ、という信念をますます強めていったのです。

 

そんなA子が結婚したのは、厳格な父親とは違うタイプの、明るく融通のきく男性でした。

でも夫が怒る時には、夫に父の姿が重なり、A子の中で凄まじい怒りが湧き起こりました。

あまりにも過敏に反応するA子の姿に、夫は当惑していました。

夫婦仲も次第に難しくなっていきました。

 

やがてA子は、男の子を生みました。

A子は、自分が男の子を産んだことで有頂天になりました。

今度こそ、父の期待を満たしてあげられる、と感じたからです。

息子を立派に育て、自分の身代わりとして、父に捧げることで、女として生まれた自分の罪が許されるような気がしたのです。

 

小さいときの息子は、全てにおいてA子の期待を満たしてくれました。

まさに、理想の息子でした。

 A子は息子のことを逐一両親にも報告し、両親は孫可愛さに有頂天になっていました。

 ところが、思春期になった息子は、突然A子に強く反発し始め、成績トップだったのにもかかわらず、不登校になってしまったのです。

A子は深く心を痛めました。

自分の何が問題だったのだろう、と深く自分を責めました。

自分でも知らないうちに、子供や夫を枠に入れて、期待に添わないと怒りが込み上げていた自分自身を発見し、A子は、深い衝撃をうけました。

 

それと共に、今まで尊敬してきた両親に対して、隠れた怒りが自分の中にあることを発見したのです。

A子は両親を心から愛していると思っていましたから、親に対する怒りの心に、罪悪感さえ感じました。

「一生懸命育ててくれた親に、こんな気持ちを抱くなんて…」

小さい頃から、親に反抗するのは悪いことだと思っていました。

しかし、親に直接向けることが出来なかった内面の怒りは、身代わりとして、夫と子供に向けられていたのです。

 

A子はカウンセリングを受けることにしました。 

カウンセリングを受ける中で、A子は自分の中のインナーチャイルドに出会いました。 

チャイルドが欲しかった言葉が出てきた時、A子の目から涙がとめどなく溢れました。

「女の子でよかったよ」

 

A子のインナーチャイルドは何十年もの間、この言葉を聞きたかったのです。 

カウンセラーの薦めで、A子は勇気を出して、それを母親に確かめることにしました。

さすがに父親に直接確認する勇気はありませんでした。

もし、否定されたり笑われたら…と思うと、怖かったのです。

 

A子は何度も躊躇った後に、ついに母親に尋ねてみました。

「お母さん、私が女の子だったけど、可愛いと思ってくれたかな…?」

母親は、一瞬驚いたようにA子を見て、言いました。

「当り前じゃない! 男の子でも女の子でも、そんなのどうでもよかったのよ!

元気で生まれてきてくれたことだけで、とっても嬉しかったんだから!」

 

母親の言葉に、A子は胸のつかえがとれたようにスッキリしました。

自分が今まで許せなかった女としての自分の存在が、初めて許されたような気がしたのです。

温かい気持ちに包まれ、自分がこの世に生まれた日、両親や祖父母が有頂天になり、女の子の誕生を祝福してくれた姿が、頭に浮かんできました。

「母さん!女の子だよ!」誇らしげに祖母に語る父親の姿。 

そうか、私は歓迎されていたんだ。

女の子で良かったんだ…。 

 

こうして、長年にわたるA子の中の禁止令が解け

女である自分を心から受け入れ、愛することが出来るようになったのです。

 

それからまもなく、B子からA子に一通のメールが送られてきました。 

メールの中でB子は、

小さい頃から母親は、長女であるA子をより愛していると思ってきたこと

自分が重要な存在ではないんだ、という確信を持ってしまい、心の居場所を探し求めてきたこと

誰か自分を本当に必要としてくれる存在をいつも求めていて、子供ができたことによって、初めてそれが満たされた

ということが書いてありました。

 

また父親に対して、こうも書いていました。

「お父さんは私をかわいがってくれたと思う…。でもそれは、言い方は悪いけど、ペットをかわいがるのと同じような感覚ではないかと思う。ただ可愛い可愛いと言う感じで。(でも、私はお父さんにはほとんど不満はありません。)」

 

最後にメールは、こう結ばれていました。

「その後お母さんとは、それなりに仲良くやってきました。

嫌なことは言わないようにしてきたし、お母さんの話を聞くように努力もしてきた。

私も忙しかったし、昔の気持ちはすっかり忘れていたのです。

でも今回、あることをきっかけに、いろいろ思い出してしまって…

この年になって、何を今さら、と思ったけど、心のモヤモヤは晴れない。

勇気を出して、お母さんに正直な気持ちを書いた手紙を出したけど、お母さんはそれに対して、ショックを受けたみたいで、少し怒ったような反応だったので、ああ、こんなこと伝えなければよかった・・・と後悔しています」

 

B子の手紙を読んだA子は愕然としました。

自分より愛されていたと思っていた妹が、心の中で、自分以上の寂しさを抱えていたとは

 A子もB子も、親の愛をめぐって、相手がより愛されていると思ってきた。

そのままの自分ではダメなのだと思ってきた。

それぞれに、別の禁止令を胸に抱えながら…。

 

A子はB子に早速返事を書きました。 

「B子、私も同じでした。心のモヤモヤが晴れなかった。

一度カウンセリングを受けて、自分のインナーチャイルドに出会ってみてください。

自分をがんじがらめにしてきた禁止令から解放されるには、

自分と向き合っていくしかないんです。

また親との間でできた問題は、親との間で解いていくしかないんです」

 

・・・さてこれは、ごく一般の家庭に起きたことです。 

A子もB子も、常識的な良い両親に育てられ、不自由なく育ちました。

両親は、もちろん子供たちを心から愛していました。

にもかかわらず、幼い頃、無意識の世界に植えつけられた禁止令によって、インナーチャイルドが傷ついているのです。 

カウンセリングを通して潜在意識の中に隠されている禁止令を発見し、それを解いていくことが、いかに大切かを教えてくれる事例でした。